リスク評価の実際

 リスク評価対応範囲 


弊社では、防爆ガイドラインやIEC Ed3.0に具体的な計算方法などの記載のない項目や複雑な条件に対しても、化学工学、熱力学、流体力学などの工学的な検討を行い、幅広く対応することが可能です。

項目 FPEC対応範囲 説明
1.評価可能物質
  • ガス(水素、メタンなど)
  • 可燃性液体(危険物の引火性液体など)
  • 液化ガス(プロパン、ブタンなど)
  • 低温液化ガス(LNG、液体水素など)
  • 多成分流体(溶剤を混ぜ合わせたものなど、複数の可燃性物質の混合物)
  • 不活性ガス、不揮発性液体、固体、水が含まれる流(例:塗料、研究用試料など)
  • 防爆ガイドラインやIEC Ed3.0ではガス放出や可燃性液体(Non-boiling liquid)の蒸発に関する計算方法の記載がある一方で、フラッシュによるガス放出やBoiling liquidの液蒸発などについては具体的な記載がありません。これらについては漏洩時の実際の現象に基づいて、フラッシュ計算、熱収支計算などを行い、リスク評価します。
  • 多成分流体の場合は混合物としての物性値を推算の上、評価します。
  • 不活性ガス、不揮発性液体、固体、水が含まれる場合、不揮発成分を考慮して評価します。
  • 極低温など取り扱い条件が特殊な水素などについても評価可能です。
2.放出源
  • 連続等級放出源
  • 第1等級放出源
  • 第2等級放出源
  • 第2等級放出源に限らず、連続等級および第1等級放出源を含めて対応可能です。
  • 特に第1等級放出源は様々なケースがあり、実際の現象を踏まえた評価方法を検討します。
    評価例はこちらをご参照ください。
3.屋外/屋内
  • 屋外
  • 屋内
  • 屋内については、防爆ガイドラインでは換気関係の記載が一部あるものの限られた記載となっていますが、弊社ではIEC Ed3.0を基に、屋内の評価も行います。
  • 屋内で非危険区域とするために必要な換気システム要件をご提示することも可能です。
4.Boiling / Non-Boiling liquid
  • 漏洩した液が沸点に達していない、周囲からの熱影響を受けない場合(Non-Boiling liquid)
  • 漏洩した液が沸点に達している場合、地面の熱などに影響される場合(Boiling liquid)
  • 防爆ガイドラインおよびIEC Ed3.0ではBoiling liquidに関する具体的な計算方法の記載がないため、弊社では熱収支計算を行い評価します。
  • 漏洩液がフラッシュする場合はフラッシュ計算を行います。
5.対応業種
  • IEC Ed3.0に準拠して幅広い業種で対応可能です。
  • 弊社の実績を「実績とご活用事例」でご紹介しています。こちらのリンクをご参照ください。
  • IEC Ed3.0では一部適用除外の業種がありますが、弊社ではIEC Ed3.0が適用できる業種であれば対応いたしますので、ご相談ください。

 

 実際の適用 

      1. ガスの状態で放出されるケース
        規格通りに容易に計算できるため、リスク評価に当たって、それほどの困難は無く実施できます。

      2. 液で漏れて、地面に液だまりができ蒸発するケース
        以下の通り、場合によって計算法が異なるため、少し複雑となります。
        • 漏洩した液が沸点に達していない、地面からの熱に影響されない場合
          風による物質移動計算に基づく蒸発速度計算となり、IEC Ed3.0記載の計算式に基づき蒸発速度を計算します。
          この時の漏洩時間は現場パトロールなどの実態に合わせて、APIなどを参考に決定します。

        • 漏洩した液が沸点に達している場合、地面の熱などに影響される場合
          IEC Ed3.0の規定により、本条件の場合IEC Ed3.0に記載されている蒸発速度式は適用できないため、弊社では太陽熱、大気、地面などとの熱収支計算から蒸発速度を求めます。

        • 液で漏れてフラッシュする場合
          フラッシュする場合も、上記同様、IEC Ed3.0に記載されている蒸発速度式は適用できないため、フラッシュ計算によりフラッシュ率を求め、残った液からの蒸発速度は別途計算します。
          このように、フラッシュガス量と蒸発ガス量を別々に分けて計算しないと危険距離の算定ができないため注意を要します。

      3. 漏洩物質の物性
        下記に挙げる物質の物性は、その温度ごとに求める必要があり、物性推算法も活用しなければなりません。
        1. 純成分流体の場合
          • ガスおよび液の定圧比熱、比熱比、密度、蒸発潜熱、蒸気圧など。
          • 蒸気圧はアントワン定数から計算します。

        2. 多成分流体の場合
          多成分流体は組成変化を考慮する必要があるため、さらに複雑になります。
          • ガスおよび液の定圧比熱、比熱比、圧縮因子、密度、蒸発潜熱、蒸気圧、分子量、爆発下限界、沸点、液の組成など。
          • 蒸気圧はアントワン定数から各成分の分圧を計算し、ラウールの法則を適用し多成分系の分圧を求めます。
          • 爆発下限界はルシャトリエの法則により計算します。
          • 多成分流体に水(H2O)が含まれている場合、フラッシュ計算・蒸発計算などは水分を含んだ計算とする必要がありますが、分子量、ガス密度、爆発下限界などの物性および放出特性の計算は、水分を除いたものとしなければなりません。

      4. 漏洩口面積
        フランジからの漏洩などについて、IEC Ed3.0は漏洩口面積の範囲を示していますが、(運転圧力/定格圧力)比などを考慮してリスクに見合った適切な値を決定する必要があります。

      5. 漏洩口面積の拡大の有無
        漏洩時に漏洩口の面積が拡大する可能性の有無によって漏洩口面積の示唆値が異なりますが、メンテナンスの状況、プラント建設経過年数、運転圧力、音速などを考慮して決定しています。

      6. 気化する液体の割合Ec(%)

        防爆ガイドラインで示されている「気化する液体の割合Ec(%)」は、通常は漏洩現象に沿って液の漏洩速度、蒸発ガス発生速度を求め、ガス発生速度を液の漏洩速度で割り戻すことで算出します。文献や実験などでEcが既知の場合を除いては、最初から設定できる数値ではないので注意が必要です。
        (Ec(%)はIEC Ed3.0には規定されていません。)

      7. 屋外の換気速度
        屋外の換気速度を実測値から採用する場合、IEC Ed3.0では年間を通じて95%以上の時間に必ず吹いている風とすることが求められています。
        平均風速を換気速度として採用した場合、リスク評価として甘くなる可能性があるため注意が必要です。

      8. 危険範囲

        防爆ガイドラインでは危険範囲の空間的な形状について言及がありませんが、IEC Ed3.0では下図のように示されています。
        これらを基に漏洩や蒸発の状況に応じて危険範囲の空間的な形状を決定しています。

      9. 第1等級放出源
        「防爆ガイドライン」では主に屋外、第2等級放出源について書かれていますが、弊社は屋内第1等級放出源についてもIEC Ed3.0に基づきリスク評価を実施しています。
        第1等級放出源は危険物の取り扱われ方により様々なケースがあるため、ケースバイケースでガス放出速度を求める必要があります。以下に一例を示します。

         <評価例> 

        1. タンクベント
          • 気相空間膨張によるガス放出速度の推定
            タンク内がほぼ空の状態で、空間容積が最大のとき、わずかに残っている液がその温度で気液平衡にある状態を想定します。
            タンクの屋根や側壁への太陽からの輻射熱、放射熱、風による対流伝熱などの入出熱を計算し、タンク内気相部の温度上昇速度を求め、気相部の体積膨張速度からベントガスの放出速度を求めます。
            太陽からの輻射熱は設置場所の緯度経度、日付、時刻の太陽高度から決まるため、ガス放出速度の経時変化を求めることにより、危険区域の時間帯による変化を把握することができます。



            <灯油タンク(15000m3)ベントガスの放出速度計算例(気相空間膨張ケース)> (クリックで拡大)
          灯油タンク(15000m3)ベントガスの放出速度計算例(気相空間膨張ケース)

          • タンク側壁温度による沸騰蒸発速度の推定
            タンク満液の場合、タンク側壁の貫流熱量を計算し、その熱により内部液が温められる場合を想定します。
            タンク側壁の温度が沸点より低い場合、入熱は全体の液温の上昇に使われ、タンクの側壁の温度が沸点に達すると入熱は全て液の蒸発に使われることとし、ガスの放出速度を求めます。
            フローティングルーフタンクの場合、気相部の空間容積がほぼないため、気相空間膨張ではなく、こちらの沸騰蒸発を検討します。
            上記同様に、太陽高度の時刻変化を求めることにより、危険区域の時間帯による変化を把握することができます。


            <ガソリンタンク(40000m3)ベントガスの放出速度計算例(沸騰蒸発ケース)> (クリックで拡大)

          灯油タンク(40000m3)ベントガスの放出速度計算例(沸騰蒸発ケース)

        2. 大気開放の液面からの蒸発
          大気に開放された液面から蒸発する場合、液の取り扱い状況、液面上の風の有無(容器の深い部分に液面がある場合は風が吹きにくいなど)などを確認の上、物質移動計算または熱収支計算によりガスの発生速度を求めます。



        3. 塗装面からの蒸発
          塗装面全体に一時に一様に塗られ、塗装面全体から蒸発するケースを想定します。リスク評価としては最大のガス発生速度となり、厳しい側の評価として検討します。


        4. 開放容器での液混合
          開放容器に最も揮発性の高い液(第1液)が入っていて、その中に別の液(第2液)を投入され、第1液から発生するガスが、第2液の容積分、開放容器から押し出されて放出されるケースを想定します。
          第1液から発生するガスの濃度、第2液の投入容積、投入時間から放出速度を求めます。



      10. 第2等級放出源
        第2等級放出源は通常運転中に稀に発生する放出源であり、基本的には防爆ガイドラインやIEC Ed3.0に示されている次のフィッティング類が対象となります。
        1. 圧縮繊維ガスケット、又は類似のものを備えたフランジ
        2. らせん型ガスケット、又は類似のものを備えたフランジ
        3. リング型ジョイント接続(Oリング等)
        4. 小口径接続部50mm以下(ネジ接続等)
        5. バルブステムパッキン
        6. 圧力放出弁(ベント、ドレン弁等)
        7. ポンプ及びコンプレッサー軸シール部

      11. 第2等級放出源(上記以外)
        第2等級放出源は、9項に加えて、危険物施設での作業状況に応じて、ヒューマンエラーに伴う漏洩を検討します。
        例として、製造現場に運搬する危険物容器(ドラム缶、一斗缶等)を誤って転倒させ、漏洩につながるケースがあります。
        この場合、容器内の全量が一時に漏洩し、広がった液表面からの蒸発を想定します。
        漏洩量が大きいと危険区域判定になることが多くなりますが、この判定を非危険区域としたい場合には、容器の転倒防止対策や容量のより小さな荷姿への変更などを自主行動計画書に明記し、非危険区域とするための対策を宣言します。
        自主行動計画書は管轄消防へ提出し許可が下りるものですので、記載した対策は約束事になり、法同様に遵守していくことになります。

      12. リスク評価結果
        何れにしてもIEC Ed3.0に求められている様に、リスク評価に当たって決めた数字の根拠を示す事が重要です。
        弊社では、リスクの評価結果を物性データとともに検討ケースごとに下表のようにまとめ、リスク評価の詳細を明確に記録しています。  
        海外拠点のリスク評価にも対応でき、評価結果資料を英文で提示することも可能です。
        ※詳細はこちらのリンクをご参照ください。

        <リスク評価結果>(クリックで拡大) <物性データ>(クリックで拡大)
        リスク評価結果

 

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